キン肉マンで言うならジェロニモだ

五重のリングで名誉の戦死を遂げたためコメントは不可能です

所属部署の送別会に行ってきた。ガンガン飲んでちょっといい気分で店を出た。外は雨が降っていた。持ってきたはずの傘がなかった。間違って持っていかれたようだ。ショックだった。

それはちょうど今日のような雨の日だった。その日、傘を持っていなかった僕は、家路までの道を急ぐでもなく歩いていた。雨に濡れるのは嫌いじゃない。頬を打つ雨は僕のほてった心を冷ますような気がして心地よくさえあった。

鼻歌なんかを歌いながら歩く僕の耳にか細く、助けを求める声が聞こえたような気がした。ハッとした僕は、あたりを見回してみたが人影はない。気のせいかな、そう思いまた歩き始めた時に、足元のダンボールが目に入った。

覗き込んでみると、子猫が雨に打たれて震えていた。捨て猫のようだ。みゃあみゃあと鳴いていた。可愛そうだな、と思ったが、困ったな、という気持ちも相半ばあった。僕は気ままな一人暮らしの境遇が好きだ。孤独かもしれないが、誰かに自分を合わせる必要がないからだ。猫を連れて帰ってやってもよいが、自分の生活を乱してまで面倒を見る気はない。そんな人間に連れて帰ってもらって果たしてこの猫は幸せになれるのだろうか。しばらく躊躇しながらその場に立ち止まっていた。

「どうしたんですか?」

突然背後で声がした。振り返ると年のころは僕よりちょっと下ぐらいだろうか、くりっとした目の女性が立っていた。女性はそのかわいらしさと不釣合いな、黒く大きく無骨な傘を持っていた。その不釣合いさが却って彼女の可憐さを際立たせていた。

「うわあ、ネコちゃん、かわいい」

それが彼女との出会いだった。

彼女とはその後楽しい日々を送った。だが、楽しい日々は決して長く続かない。僕の勝手な行動が悪かったのだ。彼女はネコと一緒に僕の前から去っていった。

そして残されたのがあの傘だ。そんな思い出の傘が目の前から消えてしまったのだ。あの日の彼女のように、思いがけず突然に。

本当にショックだった。

そんな思い出があるわけないのがショックだった。